Nationally well known, but not locally

—「どうしてここで教室を開いているのかって、だれもが疑問を思うでしょう。でも、答えるのは難しいんです……。まず、道場をつくるために、不動産を30軒ほど回って物件を探しました。外国人ということでなかなか簡単には見つかりません。ようやく見つけた物件がここだったんです。それまでは、目白に山手線が通っていることすら知らなかったんですが、ちょうど山手線付近を探していたことも決め手でした。そういうわけで、ここに道場を構えました。それからのことです、このエリアがいかにパーフェクトな場所だと気付いていったのは。目白には中世西洋楽器の店、刀や防具を扱っている店、おまけに“徳川ビレッジ”まである。池袋まで歩けば、素晴らしいレストランもたくさんあります。東京のなかでもすばらしいエリアだと思いますよ。わたしはミズーリ州の田舎のほうで育ったので、“都会なのにほどよく自然があって住みやすい”この地域の雰囲気が、すごく落ち着くんです。唯一の問題は、わたしたちの存在が目白に暮らす人にすら知られていないことくらい(笑)。テレビ番組などで、わたしたちの活動が取りあげられるようになって、全国的な認知度が高まっている一方で、ローカルではなかなか注目されない。そもそも中世西洋武術を知らない人たちにとっては、わたしたちの存在自体が謎でしょう。反対に、もともとこの世界に興味のあった人は「これを探していたんだ」と、<キャッスル・ティンタジェル>の存在を知るや否や、即入会を決めるんです。その中間というものがない。まぁ、なにはともあれ、そういうわけで、ここにやってきたということなんです」

縁があって目白にやってきたジェイさんですが、そもそも日本で中世西洋武術を教えるようになったのはどうしてなのでしょう。

—「​実は、以前は大学をはじめ、さまざまな場所で英語を教えていました。妻が日本人だったこともあって、10年間、アメリカと日本を行き来しながら。でも、同時に剣術の勉強もしていて、本当は剣術を教えたいという想いの方が強かったんです。この仕事をはじめたのは、娘が生まれたことをきっかけに、人生についてそれまでよりシリアスに考えるようになったから。あと、雨に打たれながら戦うのにもさすがに疲れてきて……(笑)。おかげで、いまはエアコンのある部屋で戦える。35キロもある甲冑を着るファイターには、エアコンは必需品です(笑)」

自分の好きなレベルで。中世西洋武術は女性も楽しめる“スポーツ”

​いまでは70名以上の生徒を抱えるまでに成長した<キャッスル・ティンタジェル>。東京以外にも、名古屋と仙台に支部を構えています。急成長中のチームには、いったいどんな人たちが所属しているのでしょう。

—「メンバーには、実はさまざまな才能を持ったアーティストも多いんです。漫画家にイラストレーター、システムエンジニアだっています。だから、わたしにとっては日本での友達づくりにも一役買ってくれています。もちろん日本人だけじゃなく、あらゆる国のファイターがいます。イギリス、アメリカ、フランス(なぜか、フランス人がとても多いのだそう)、ロシア、中国、フィンランド、オーストラリア……。海外から練習にやってくるファイターの受け入れもおこなっています。あと、メンバーの10%くらいは女性なんです。“中世西洋武術”と聞くと、どうしても男性的でアグレッシブなイメージを抱くと思いますが、実は女性にもできるスポーツなんです。というのも、しっかりとした“セーフティールール”を敷いているから。たとえば『初心者クラス』なら、殴ったり、投げたり、蹴ったりしない。あくまで武器と武器で戦うルールです。ハイレベルな『アドバンスクラス』だけをしたいという人もいるけれど、それぞれが自分の好きなレベルを楽しめばいい。だから、座学でスキルを勉強したいという人も大歓迎。ファイターになるのか、プリンセスになるのか、それはあなた次第です。来年は、『キッズクラス』を新設したいと考えているんです。声を大にして伝えたいのは、わたしたちは危険なクレイジー集団じゃないということ。もちろん、戦うときは真剣だし、たしかにちょっと変な集団ではあるかもしれないけれど(笑)。汚い言葉を吐いたり、感情的になったり、そういうのはわたしたちのスタイルじゃないんです」

なるほど、あくまで性別問わず楽しめる“スポーツ”としてきちんとルールを敷いているのは、どこか日本的な感じもします。ジェイさんは、自分たちが所属するコミュニティーにも積極的に貢献していきたいのだといいます。

取材で行って、帰る頃には入会していた

「そもそも、創作のためにルネサンスダンス教室を探していたんです」
ジェイさんとのお話についつい時間を忘れ、いつの間にかこの日のレッスンの開始時間に。ちょっと早めにいらっしゃっていた女性にお話をきくことができました。<キャッスル・ティンタジェル>歴5年目である彼女(ニックネーム「PAIN」さん)の本職は、ファンタジー作家。ルネサンスダンスの情報を探していて、偶然見つけた<キャッスル・ティンタジェル>に取材を申し込んだことが入会のきっかけでした。「取材に来ていただくのは構いませんが、その日は『剣の日』なんです」と聞いて、とても驚いたそう。

—「求めていたものとは違ったけれど、なにかの役には立つと思って取材をお願いしたんです。そして、取材が終わる頃には入会していました(笑)。もちろん、中世西洋武術なんて聞いたこともなかったので、知識はゼロ。本格的にスポーツをやったこともなければ、10年以上デスクワークだったので、運動経験もほぼゼロ。それでも46歳のときから5年間続けていると、それなりに上手くなるものなんです。おまけに、普段の生活にもいい影響が。職業柄、スランプで暗くなったり眠れなかったりすることがあったのですが、それが一切なくなりました。メンタルが強くなるのと同時に、疲れてどうでもよくなっちゃうんですよね(笑)。体脂肪や体重が減るのはもちろん、体調やお肌の調子も如実に変わります。ウエストや腕は細くなるし、お尻も上がってくる。また、ここでの基本言語は日本語と英語なので、自然と英語もしゃべれるようになりました。アンチエイジングと英語の分は料金を取られないのでかなりお得かな、なんて、ちゃっかり思ったりもしているんです」

PAINさんのように女性もたくさん通っている<キャッスル・ティンタジェル>では、ただ中世西洋武術を教えているわけではありません。ジェイさんは、「中世の衣装づくりや鎧のデッサン会、週末にはさまざまなワークショップもおこなっています。戦うことだけにフォーカスするのではなく、そういったアクティビティーも増やしていきつつ、地域の方にも気軽に参加していただける場にしたい」と、今後の目標を語ってくれました。
ぜひホームページをチェックしてみて、目白の一角に現れる中世ヨーロッパの世界を訪ねてみませんか。

取材・文:高阪正洋
写真:西野正将