たまたま住み始めた雑司が谷は、人との距離感が心地よいあたたかな都会だった。

以前は本田技術研究所で車のデザインに携わっていたという嶋田さん。雑司が谷に引っ越してきたのが8年前のこと。当時、その理由は「利便性」だったそうです。

ー「雑司が谷が夫の職場と、私の職場の中間地点だったんですよね(笑)。それまではどんな場所なのかもあまり知識はなく、副都心線が開通したことで便利な場所だなというだけで決めたんです。実際住み始めてみると、路面電車が走っていたり、緑も多く、とても心地よい環境でした。池袋という大都会の隣なのに静かで、そして便利。古くから住んでいる方も多く、お祭りなんかもあって、ご近所とのゆるやかなつながりも心地よく、治安もいいんですよ。当時はまさかここで自分のお店を開くことになるとは思いもしませんでしたが」

子育てしながらお店を営むこと。仕事は生活の延長線にあるもの。

出産し、これまで通りの働き方ができなくなった嶋田さんは、子供と一緒に過ごす時間を持ちながらも、やりがいを感じられる仕事を求め思い切って会社を退職。子育てしながら自分のお店を開く事に決めました。実は、飲食業の経験がゼロからのスタートだったそうです。

ー「8月で5年目を迎えたこのカフェも、最初は手探りでした。実は、飲食業の経験はゼロだったんですよ、無謀ですよね!(笑) 最初にしたのは、物件探し。エリアを広げずに家の近くでお店を開きたかったので、近所で探すことにしたのですが、運良く当時住んでいたマンションの管理人さんがこの場所を紹介してくれました。家の近くがよかったのは、東日本大震災の影響と、通勤時間がもったいないと思ったからです。職場が近ければすぐに保育園にお迎えにいけますし、通勤に時間をとられない分仕事ができますし、子どもとも一緒に過ごすこともできるからです。また、近くに職場があることで『生活』と『仕事』の垣根がなく、境界線が曖昧になって、自分にとってはとても心地よいと感じました。生活の延長線に仕事があることで、子育てと仕事、生活を分けることなく考えられるようになったと感じています。もちろん仕事と子育ての両立はどんな働き方でもストレスや葛藤はあると思うのです。でも、会社員とは違って、自分で仕事のスケジュールを決められることは最大のメリット。今できる事をできる形でやる、という感覚で仕事も子育てもしているんです。

子どもたちがいつか帰ってくる場所になる。思い出がつくれる豊かな街。

子育てをしながらお店を営む嶋田さんですが、これまでに2度引っ越しを経験しました。お店が雑司が谷にあるという理由もあったそうですが、同じ地域内の引っ越しはそれだけが理由ではないそうです。

ー「子どもが生まれてからの引っ越しは、どちらも近所なんです。もう、ここからは離れられないなと思って(笑)。というのも、子どもたちがこの街に愛着を持っているのがわかるんですよね。例えば、鬼子母神の参道を通って通園したいなど、お気に入りのコースがあったりするんですよ。雑司が谷霊園の歴史ある場所を、手をつなぎながら歩いていると、将来独立してもこの子たちはここの場所が故郷で、ここに戻って来るのだなと、ふと思うんです。そして、ここは子どもたちが思い出をたくさんつくれる場所だとも。それは先ほども言いましたが、ご近所さんとのふれあいや、地域のお祭りなど、人とのつながりが魅力的で、都会にありながら豊かな環境があるからだと思うんです」

若い人がもっと集まるような街が理想。お店を通して地域を盛り上げていきたい。

雑司が谷に住んで8年。いま嶋田さんが思うことは、若いひとがもっと集まり、活気のあるエリアになれるポテンシャルはあるのに、まだなりきれないというそのもどかしさなのだとか。

ー「こんな素敵な地域なのですが、実感としては若い人が少ないなと。若い人たちがもっと自分たちのやりたいことを、さまざまな形で表現していける場所が理想的ですね。そうすることでエリアがもっと楽しくなるのではと思うんです。『あぶくり』でも、閉店後を利用した『夜の学校』という学びの場をつくったり、自分の興味あることなどを軸にワークショップを不定期に開催してきました。それは、この街にいるであろう、感覚の似ている人たちがつながるきっかけができればいいなという思いもあって。そしてここから何か新しい事がうまれ、発信できればとも。また2015年からは商店街の店舗の軒先を利用した、『つくつくさんぽ市』という、クリエーターのためのマーケットも始めました。とにかくここの街の魅力を知ってもらい、もっと楽しくしたいなという思いがあります。だから率先して私たちが新しいこと、楽しいことをやっていきたいとも思っています。実はこの2月に、新しくパン屋さんを神田川近くにオープンするんですよ。パン屋は『あぶくり』をオープンしてからの夢だったんです。またしてもパン屋の経験はないのですが、無謀を可能にしていきたいと!!(笑)。いずれは野菜を育てたり、屋上で養蜂するなど、すべて自分たちがてがけたものでサンドイッチをつくってみたいですね。勢いでスタートしたぶん、反省点もでてくるのですが、それはその都度解決し、これからも新しいことにどんどんチャレンジしていきたいと思っています」

インタビュー・文:田口みきこ
写真:西野正将


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あぶくり (カフェ・雑司が谷)
http://www.abukri.jp/