赤丸ベーカリーで作っているパンが約30種類もあるのをご存知でしょうか。順番に焼きあがるパンは、並べたそばから売れていくので、全てのパンが店頭に並ぶことは少なく、来店の時間によっては売り切れてしまったり焼きあがり前で数種類しかないときもあるのです。
今回は、赤丸ベーカリーでパンを買うお客さん100人に『一番好きな赤丸さんのパン』を聞き、まだ私が出会っていない美味しいパンがあるかどうかを調査。果たして新しい出会いはあったのでしょうか。
そして人気1位のパンは?調査から見えてきた、地元のお客さんならではの声、赤丸さんのこだわりや想いはどのようなものなのでしょうか。


某珈琲店にて

いつもの珈琲店で私はパストラミサンドにかぶりついていた。中のパストラミはもちろん、ほどよくトーストされた食パンが美味しい。この食パンは弦巻通りにある『赤丸ベーカリー』の食パンである。近所のモズカフェでも赤丸さんのバケットを使っていて、店主のモトハシさんは「粉の味わい、甘み、香りが感じられるバケットは都内でもそう無い」と言って15年くらいずーっと赤丸さんのバケットをお店で出している。フランスで食べたバケットによく似ているんだそうだ。

赤丸さんと言えば雑誌でよく紹介されているのはクリームパンとラスク、最近はテレビでシベリアも注目されていたっけ。でも実は私は海老カツパンも気に入っているんだよなあ。ふと思い立ってスマートフォンで赤丸ベーカリーのサイトを見てみると、お店で見たことのないパンがちらほら。あれっ、こんなパンあったんだ。そういえばチョココロネが食べたいなあとずっと思っていたのに、引っ越してきて1年間、赤丸さんにチョコレートパン(いわゆるチョココロネ)があるのを気付かずにいたことがあった。もしかして、まだ私が出会えていないパンがあるのかもしれない。こうしてはいられない。冷めかけのブレンドコーヒーをぐいっと飲み干し、私は赤丸ベーカリーへと向かったのであった。



1位予想はやっぱりあのパン

赤丸ベーカリーは10時オープン。昔は朝8時から夜23時頃まで営業していたこともあったそうだが、今はご主人一人でパンを焼いているので、あまり無理せず朝10時から夜20時までの営業に落ち着いているそう。「コンビニもできたし、昔と違って、うちがやってないと食べるものがない!ってお客さんが困ることもなくなったからね」バターを測りながら四代目の赤丸尋智(ひろのり)さんは話す。
朝の陳列棚には調理パンがぞくぞくと並んでいく。私が好きな海老カツパンももちろん整列してお客さんを待っている。そして、ぎっしりショーケースに並んだ人気のシベリアやプリンも準備万端。

この日、私はまだ見ぬ美味しいパンに出会うため、調査をしに来ていた。100人のお客さんに一番好きなパンをきくことで、知られざる絶品パンを発見できるのではないかと考えたのである。
開店して間もなく、上食パンを買いに珈琲店のマスターがやってきた。今日もあのパンにパストラミを挟むのだ。マスターに一番好きなパンを尋ねると「クリームパン」と答えた。
調査前に、四代目に順位を予想してもらったら「一番多く作ってるのはクリームパン。でもウチはコレが好き!っていうこだわりのあるお客さんも多いからどうかな、聞く時間帯にもよるかも。夕方はバターロールやぶどうパンが好きなお客さんが多いから」とおっしゃっていた。一緒に店を切り盛りしている妹の末千江(まちえ)さんは「やっぱりクリームパンかな」との予想。なんでも小さい頃はクリームパンにまったく興味がなかったのだけれど、四代目が改良を重ねた今のクリームパンはすごく美味しくて大好きになったというのだ。これはやはり、クリームパンの一人勝ちになってしまうのだろうか。


さあ、調査開始!

昼12時に向かってパンがどんどん焼きあがっていく。人気のクリームパンは11時半に棚に運ばれたとたん、5個、6個と買われていき数分後には綺麗になくなった。レジにはお客さんの列。それを四代目のお母さんと叔母さんが丁寧かつ手早く対応していく。この時間帯のお客さんには迷いがない。目当てのお惣菜パンをさっと手に取りレジへ並ぶ、そんな人たちが多かった。また初めて来店したというお客さんもちらほらいて、彼らはクリームパンとシベリア目当てに来ていた。(シベリアは13時になるころには売り切れていた。)私の質問にはみなさん快く答えてくださって、「一番好きなパンは何ですか」と尋ねると、嬉しいような困ったような顔で答えてくれるのが印象的だった。意外にもコレ!とずばっと断言する人は稀で、たいていの人は「う~ん、一番?むずかしいけど、でもやっぱり○○かな」といった風に好きなパンを教えてくれるのだった。


オニオンブレッドとの出会い

オニオンブレッドが焼きあがったのは、12時近くだったように思う。これが私とオニオンブレッドの初めての対面だった。チーズたっぷりのその見た目は食パンのようでもピザのようでもある。焼きあがった熱々のオニオンブレッドは食欲をそそる香りを漂わせていた。焼きあがり時間を見計らったように一人の女性が来店し、迷いなくオニオンブレッドを手にとりレジに向かった。私はすかさず声をかけた。「すみません、今赤丸さんで一番好きなパンを伺ってるのですが・・・」すると女性はニッと笑って、オニオンブレッドを指差した。「コ・レ!食べたことないの?美味しいよ~!もうね、一度食べたらもうダメ。毎日食べちゃう」。その言葉に彼女の笑顔に、これは食べるべきパンだと確信して私も購入。帰宅後、トースターから出てきたオニオンブレッドの味は、今までこのパンと出会っていなかったことを悔やむ美味しさであった。





一番人気のパンはどれだ



それでは調査結果を発表しよう。

1位:クリームパン(13票)
2位:オニオンブレッド、上食パン(10票)
3位:海老カツパン(7票)
4位:バターロール、カツサンド(5票)
5位:あんぱん、サンドイッチ、コロッケパン、チーズドッグ(4票)
>>ランキングの全貌はzodee にて公開中

1位は、やはりクリームパンだった。しかし2位との差は3票。もっと圧倒的な差がつくと思っていたが意外な結果が出た。四代目に出来上がったランキングを見てもらうと「思ったよりバラけましたね。やっぱりお客さんの年齢層が幅広いからかな」との感想。バターロールが上位に入っているのが嬉しかったそうだ。「バターロールは小麦粉とバターでシンプルにつくっているから味と形のバランスがとっても難しい。一番シンプルで、ごまかしがきかないパン。だから入っていて嬉しい」とのこと。バターロールには夕方に行くと出会えます。
四代目が一番意外とおっしゃっていたのはオニオンブレッド。「これはすぐに売り切れるし買う人もだいたい決まっているから知らない人が多いと思っていた」という理由で予想外とのこと。票を入れた方の中には「なかなか出会えないレア感がいい」とおっしゃっていた方も。私も今回出会ってよかったと思っているのは、このオニオンブレッドです。

お客さんの年齢層は四代目の言う通り幅広く、どの世代にも愛されていることがわかる。
[100人の内訳] 10代以下/15人、20代/12人、30代/19人、40代/17人、50代/13人、60代以上/24人
男女別でみると、男性/34人、女性/66人と、女性の支持を集めている。しかし面白いのは1位にクリームパンを挙げたお客さんだけをみると、13票中9票が男性と男女比が逆転していることだ。クリームパン人気は意外にも男性に支えられている。女性だけのランキングは1位:上食パン(10票)、2位:オニオンブレッド(7票)、3位:バターロール(5票)、と食卓パンが人気。男性は1位:クリームパン(9票)、2位:カツサンド、オニオンブレッド、ラスク(3票)といった結果。

赤丸さんでは食パン系のパンは上食パンをはじめライ麦食パン、パン・ド・ミ、イギリスパン、ぶどう食パンと5種類あり、これらの票を全部あつめると20票となり、クリームパンを追い抜く。毎日食べる食パンが人気だという結果は地元に愛されて毎日食べられているという証拠に他ならない。
ちなみにパン・ド・ミは今回唯一お目にかかれなかったパンで、月曜日の夜だけ焼くパンだそう。ほとんどが予約で売れてしまうので、まさに幻のパン。


雑司が谷を見つめる続けるパン屋さん

街の変化を一番感じることはなんですか、と四代目にたずねると「子どもの数が減ったこと」という答えが返ってきた。昔は子ども達だけでパンをおやつに買いに来たりしていたけど、最近は習い事が忙しいのか、子ども達だけで買いに来ることはほとんど無い。子どもが減って閉校してしまったが、旧高田小学校の運動会の日なんかはすごかったらしい。お弁当だけでは物足りない、食べ盛りの子ども達のお母さんがたくさん買いに来るから運動会の時は大忙しだったそうだ。
時代に合わせてパンの味も少しずつ変化させている。「僕自身は子どもの頃はぶどうパンっていう、コッペパンにぶどうが入ったパンが好きだったんだけど、今は作ってない。今だったらあんな甘すぎるパンは売れないと思う。やっぱり時代の求める味はあるよね。でもそのときみんなが思い浮かべる一番美味しい定番の味を作れたら最高だと思って作ってます」昔から変わらないと言われている味は、実は研究に研究を重ねて進化させている味なのだ。例えばクリームパンのクリームは15年前に卵を変え、2~3年前にコーンスターチをやめ、香料を天然のバニラに変えた。そうやって昔からの人気パンの味は守られている。

惣菜パンを担当している末千江さんは「うちにはみんな定番の安心感を求めてきているんじゃないかな。前にチーズとトマトのサンドイッチやツナとレーズンのお惣菜パンなんかをやったことがあるけど、美味しいけど結局売れなくてやめちゃった。ツナとレーズンのパンはテレビでも推してもらったのに、地元の人には全然響かなかったみたいなの。目新しいものじゃなくて、いつもの美味しさを求めてくれているんだと思う」と話してくれた。

最後に私はずっと気になっていた小さな疑問を四代目にぶつけてみた。
「あの、、、ランキングにも入ってるチーズドッグってこれだけニチレイの冷凍のですよね。パンの札にも書いてあるし。どうしてひとつだけ市販のものを置いてるんですか?」「ああ、あれね、いつからあるのかわからないくらい昔からあるんだよね。手作りパンのお店だから、僕も市販のものを置きたいわけじゃないんだけど、ファンが多いの。ランキングにもはいってるでしょ?これなくしちゃうとお子さんが泣いちゃうんだ~、子供泣かせてまでなくしたくなくてね」「やっぱり私の解凍の仕方が絶妙なのかしら」とおちゃめに末千江さんが笑う。これも最高の定番を守るパン屋さんならではの選択。
赤丸ベーカリーの陳列棚にはパンとともに街の人への愛が隙間なくつまっている。