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山本山田さん イラスト:織田博子
北池袋駅から徒歩5分。くすのき公園の横にたたずむ昔ながらの建物が、異彩を放っています。

これがシェアアトリエ「くすのき荘」。
物々交換でご近所づきあいを生み出すイベントや、まちを巻き込むアート「10億円のメリーちゃん」を池ブルックリンの記事でも紹介しました。
「木賃ズ・トーーーク!」「地域のお祭りで流しそうめん・提灯づくり」など、ユニークな、まちを巻き込む楽しいプロジェクトを多数開催しているくすのき荘の山本直さん、山田絵美さん。

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今までリアルやSNSで「いつも面白いイベントをしている」という印象だったくすのき荘。
今回のお話を聞いたことで、そのクリエイティブな発想や、原点となっている考えを聞くことができ、「面白いだけじゃなく、文化を作っている」という印象になりました!

時代の最先端どころか、未来を歩いているお二人の言葉は、まちづくりに携わる人たちにインスピレーションを与えてくれます。そんな楽しいインタビューを、「豊島区を面白がるプロジェクト・池ブルックリン」の織田博子、めぐが記事にしてみました。


記事作成:織田博子(記事一覧
食を旅するイラストレーター/マンガ家。
「世界家庭料理の旅」をテーマとして、ユーラシア大陸一周半旅行に行ってきました。
池ブルックリンでは絵と食べるの担当。
公式サイトはこちら
マンガ「世界を旅する母ちゃん 駒込で子育て」(しろいぶた書房)、旅のコミックエッセイ「女一匹シベリア鉄道の旅」、「女一匹シルクロードの旅」、「女一匹冬のシベリア鉄道の旅」「女一匹冬のシベリア鉄道 特製余録」「北欧!自由気ままに子連れ旅」(イースト・プレス)出版。


記事作成:めぐロッカー(記事一覧
音楽や映画が好き。最近はキャンプやアウトドアにはまってます。
得意分野は、映像編集。


レトロな風合いの看板

「ハチ営業日」……なんだろう、ハチって

あふれるクリエイティビティと楽しい雰囲気で、入り口から「ここは普通のアーティストレジデンスじゃない」と感じさせてくれます。

アルコール消毒装置も独創的です

階段をのぼっていき、リビングでお二人にお話を聞きました。

古くて新しいライフスタイル「木賃文化」を提唱する「くすのき荘」

くすのき荘を語るうえで必ず出てくるワード「木賃文化」について説明します。

「かみいけ木賃文化ネットワークは、豊島区上池袋地域にある木賃アパート「山田荘」の活用から始まったプロジェクトです。「足りないものはまちを使う」木賃の生活スタイルを木賃文化と考え、アクションと場と人をつなぎ、ネットワークが広がっていくことを目指しています。 」―――サイトより引用
たとえば、山田荘にはお風呂がありません。でも、「お風呂がない」と考えるのではなく「まちの銭湯が私のお風呂」と考えるのが木賃文化流。
自分の生活で“足りない”と感じることや機能を、空いている木賃や、まちのあらゆる場を使って楽しむライフスタイルの提案です。

まちの人が誰でも表現者になれるまちづくりをしたい

こういう場所を作ろうと思ったきっかけはなんですか?

山田さん(以下敬称略):もともとは私が上池袋出身で、実家が所有していた木賃アパート「山田荘」を受け継ぎ、普通に賃貸するにはつまらないので、面白く使いたいと思っていました。しかし、ふと上池袋というまちを見た時、道路拡張や建物が短期間に壊されていく様があり「このまち、誰のためのまち?何かちがうんじゃないか」と思い、地元が嫌いでした。住んでる人が楽しくない、なにもない街という感じ。

山田絵美さん

私は、大学では「世界遺産都市の保全計画」を研究していました。モデルはスペイン。
生きているまちが、長く愛着をもって守られている理由を知りたかったんです。
また、社会人になってからその感覚に近いと感じた、東京ー谷中、根津、千駄木の「芸工展※」の試みがユニークだと感じて、まちに住みながら事務局としてお手伝いをしました。

※芸工展…東京ー谷中、根津、千駄木地域で1993年から開催されているアートプロジェクト。
キーワードは「まちじゅうが展覧会場」。参加者は、趣旨に賛同する普通のひと、様々な職人、アーテイスト、お店、ワークショップ、学生等。ガイドマップを片手に裏路地に迷い込んで、今まで感じたことの無い気持ちや見過ごしていた景色、非日常とのノイズ、新たな発見や出会いを作り出す。

そこでは「まちのあらゆる場所が会場であり、まちの人、だれもが表現者になれる」という事を学びました。
山田荘の使い方を考えつつ、2015年に近所の空き物件だったくすのき荘を新たに借りることになり、ここで「上池袋を、まちの人が誰でも表現者になれる、おもしろいまちにしたい。山田荘やくすのき荘はそのハブにする」という想いが形となり、かみいけ木賃文化ネットワークのコンセプトが生まれました。そこから一緒に山田荘やくすのき荘を使って活動する仲間(木賃メンバー)を集め始めました。

山本直さん

山本:僕はもともとは建築・設計事務所で働いていました。地方で開催されるアートプロジェクトの現地制作担当として、地元組織の方々や、地域のみなさんとコミュニケーションを取りながら、作品作りに関わっていました。

そこから「一見普通に見えるまちのひとが、一人一人がとても個性的で、創造性に溢れている」という、自分の暮らすまちで今活動する人たちの応援をしています。

お二人とも根底には「ふつうの人が表現者になる」というキーワードがあるんですね。

池袋で買える中で一番高い(10億円)作品『メリーちゃん』を納品するアートパフォーマンスの裏話
ところで、山本さんといえば、「10億円の『メリーちゃん』※」のアートパフォーマンスが印象に残っています。池袋に激震が走りました。

メリーちゃん…かつては上野こども遊園地の看板となっていた回転木馬のモニュメント。2016年の遊園地閉鎖の後、縁あってくすのき荘に来たそう。
山本さんは、2020年3月に開催された、まちの人が池袋駅で出店する「池袋ローカルゲート」に、くすのき荘から「10億円のメリーちゃん」をうやうやしく運んできて、納品するというアートパフォーマンスを披露した。

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くすのき荘の1階においてあるメリーちゃん

山本:池袋ローカルゲートに向けて、「木賃文化ランド」という遊園地を作ろうと準備を重ねていました。しかし、新型コロナウイルスの流行によりワークショップや対面のプログラムができなくなり、物販しかできないということになりました。でも、くすのき荘は物販するものがありません。 そこで、「一流ブランド店もある池袋駅で買える物の中で一番高いもの」を売ろうと思い立ち、メリーちゃんを10億円で売ることにしました。 10億円の「商品」なので、手軽にお客様が触れない設定にして、スーツ姿に手袋を着用しました。もちろん感染症対策としてちゃんと対策できるストーリーにしました。

たまたま納品された瞬間に池袋ローカルゲートにいたのですが、うやうやしく納品する山本さんの姿を見て、笑ったと同時に「これはアートパフォーマンスだ」と感じて記事にしたことを覚えています。

山本さんはとっても自然な感じでこうしたアートパフォーマンスをやられていますよね

山本:僕がしていることは、既存の価値観から見るとちょっとずれていることに焦点を当てることです。くすのき荘も、まちの風景の中で少し異質なものとして作っています。

そういえば、上池袋の交差点で、メリーちゃんを運んでいる山本さんを目撃しました。 なにか面白いことがこのまちで起こっている、と思いました。

冒頭の「ハチ営業中」の「ハチ」はネコちゃんでした。普段は在宅勤務で、週1で出勤しているそうです。

「無目的な場所」から生まれる多様な文化

くすのき荘のメンバーはみな個性的ですが、彼らの才能が発揮されるためにこの場所で心がけていることがあったらお教えください。

木賃ズと呼ばれるメンバーたち

山田:使用目的を限定しないで、あえて無目的な場所にしています。メンバーによって、どう使ってもいい。

どんな使い方をする人がいますか。

山本:劇場として使用したり 、舞台衣装作家の作品展で身体表現パフォーマンスを行ったり。
面白いのは「寝に来る」人です。正確には寝てしまう。
女性が安心して、家以外で寝られる場所。そういう場所としてくすのき荘があることが面白いと思います。

あえて間仕切りを作らず、オープンになった工房が印象的です。空間をシェアすることはクリエイティビティにどのように影響を及ぼしますか?

山本:メンバー間で刺激を与えあったり、違ったジャンルのものづくりをしている人の全く違う視点を取り入れることで、思わぬ発想が生まれたりすることがあるそうです。
作ったもの、作った道具が見えて、その状況がシェアされていることが大切。
もちろん、ものづくりだけではなく、このリビングで多様なメンバーで話し合うことで刺激をしあったり、コラボしたりが生まれていきます。

ここから生まれたプロジェクトはありますか?

山本:メンバーであり、舞台美術家の中村友美さんと演出家の星茉理さん(はらぺこ満月)の「移動祝祭商店街 まぼろし編」※はここから生まれました。
※オンラインとオフラインを往復しながら“まぼろし”の「移動祝祭商店街」を立ち上げるアートプロジェクト。豊島区内の商店街が舞台となった。主催:フェスティバルトーキョー
また、このTシャツは、デザイナーの杉原仁さんと美術家の深山綾子さんによるオリジナルTシャツです。僕への誕生日プレゼントとしてサプライズで作ってくれました。

作品がふつうにリビングに飾ってありますね。なんの説明もなく……すごすぎる空間です。
「表現することは敷居が高い」と感じている人たちが表現者に育っていくには、どのような試みをされていますか?

山本:「みそのわ」や「マチの家庭科室」などは、参加型のワークショップで表現を身近に感じてもらえる企画です。表現というか、自分らしさをこうやって出せるんだ、と思ってもらうというか。木賃版「わたしらしく、暮らせるまち。」ですね(笑)

木賃メンバーは、1年ごとに募集していますが、半数以上が継続しています。
最近嬉しかったのは、くすのき荘から卒業して、新しく拠点を作った人がいること。そのうちの一人は、活動場所として自ら木賃アパートの一室を借りました。
新しいことを始めるとき、例えばお店を作るために場所を借りて、改築して、開業準備をする…という大変な手間をかけるという方法があった。でも、木賃は比較的物件数も多く、安価に自分たちで新しく作っていける。今までと違う選択肢ができた、こんなやり方があるんだと気づいてもらったことが嬉しかったですし、そうやって既存の木賃が活かされるなら素敵なことです。

100年後に木賃文化が重要な文化になるかもしれない、だからそのまま保存したい

昔ながらの雰囲気を残すくすのき荘

作品がふつうにリビングに飾ってありますね。なんの説明もなく……すごすぎる空間です。
「表現することは敷居が高い」と感じている人たちが表現者に育っていくには、どのような試みをされていますか?

山本:リノベーションももちろん選択肢としてアリだと思うんですが、木賃建築の活用をしよう、というときにリノベーションして素敵にして…というのが、40年前の「戸建てを持てば財産になり、幸せになる」というのと似ている気がしました。40年後、ぼろぼろの家やんけ。みたいな。 時間がたったら価値が上がっているものって、きれいな建物や部屋ではなく、コミュニティやネットワークだと思ったんです。 「足りないものはまちを使う」という木賃文化が、100年経ったら価値が出てくるかもしれない(出てこないかもしれないけど)。

まさにレガシーですよね。こういった活動は、個人だけでなく公でもやっていくことなのかな?と思いますが、豊島区とは何か繋がりあるのでしょうか?

山田:山田荘では、2014年に「としまアートステーション構想」で、「としまアートステーションY」のプロジェクト拠点になりました。アートを生み出す小さな拠点を、区民とともに作るという面白い試みで、私たちもここで得たつながりが今も生きています。2016年に終了していますが、豊島区はもっとこのようなボトムアップの試みを続けていけばいいのにと思います。

※としまアートステーション構想…アートを生み出す小さな拠点「アートステーション」をまちなかに出現させながら、多様な人々による、地域資源を活用した主体的なアート活動の展開を目指す試み。2012~2016年。

それは知りませんでした!

山本:アート・カルチャー都市のプログラムも楽しく参加しています。
プロのアーティストが提供し、区民が楽しむイベントが多いですが、表現者を育てる、応援する人を増やしていくという視点があるともっと面白くなっていくなと思ったりしています。

最後に、お二人はくすのき荘を通して、どんな景色を作っていきたいですか?
たとえば、おじいちゃんおばあちゃんになった時に、どんな風になっていたら「自分たちの人生、素晴らしかったな」と思うか。

山本:そのたとえで言うなら、若い人たちにちやほやされたいです(笑)
死ぬときに、いろんな世代の人たちに見守られて死にたい。「おじいちゃん、果物持ってきたよ」とか言って遊びに来てくれるような。

たとえが山本さんらしくユニークですが、多世代交流があるまちは素晴らしいですね!

山本:ふざけてしまったので、山田さんはちょっとまじめに応えてくれるかな。

山田:「このまちが好きだ」と思いながら住む人がいっぱいいる光景です。
自分のことだけじゃなく、まちで暮らす他の人にも興味を持つ人が増えていったらいいな。

山本:「足りないものはまちを使う」ライフスタイルが浸透していけば、家のあり方も変わっていく。たとえば「子どもがいたら子ども部屋があるべき」と考えることが普通でも、子ども部屋を使うのってたった10年くらい。それだったら「隣の部屋を借りて、子ども部屋にしちゃおう」とか、そういう発想もできるのかなと。人それぞれ、住まいの形があってもいい。まちに多様な人や住まいがある。選択肢があることが面白いと思うんです。

池ブルックリンメンバーによるまとめ

SNSで「なにこれ!面白いイベント!」と思うとだいたい「かみいけ木賃文化ネットワーク」が主催。そんな面白いことが次々と生まれてくる場所は、「まちの人が誰でも表現者になれる」という理念のもとに設計されていました。まちの人たちの化学反応によって、ここからどんなものが生まれてくるのか。また、100年後に、ここが「トキワ荘」のようなカルチャー発信の聖地として語られていくのかもしれない。そんな思いを抱きました。(織田博子)

今回取材して、上池袋地域に住んでいる身としては、山田さん、山本さんの言う、「日常にある違和感」というキーワードがとても気になりました。
上池袋といえば住宅街で何もないところなのですが、「くすのき荘」があることで、この「違和感」が日常になっていくという逆転現象が起きてきているとも感じました。違和感を徐々に日常に浸透させていくと、その違和感が人々の表現力を感化していくということがあるなと思いました。ぜひこの「違和感」をこれからも浸透させていってほしいです (協力します!)(めぐロッカー)


くすのき荘 2021年のメンバー募集中!

こんな面白い場所を借りてみたい!自分のアイディアを形にしたい!など、興味を持ってくださった方は、ぜひ木賃メンバーになることを検討してみてください。

どんな人がくすのき荘のメンバーに向いていると思いますか?

山田:説明会を聞いて、引かない人(笑)

山本:なにそれ。

山田:コワーキングスペースや普通の賃貸とは少し違うところが魅力。すきまがあったり、個性的なメンバーがいたり。そういう場所を笑って使える人。出会いや交流を楽しめる人が向いていると思います。

オープン日やります!個別見学・相談OK

​「山田荘」「くすのき荘」を使う木賃メンバー追加募集中!なので、木賃の日常を体感していただけるよう、拠点のオープン日をつくりました。木賃空間や、メンバーとの会話を通して私たちの日常を感じてください。何かやっているかもしれないし、やっていないかもしれないです。
「木賃メンバーって何さ?」、「『くすのき荘』や『山田荘』ってどんなとこさ?」「たまには遊びに来たいさ!」という方は、お気軽にのぞいてみてくださいね。

【オープン日】
 2021年
 2月 20(土)、23 (火祝) 27(土)
 3月 2(火) 6(土) 9(火) 13(土) 16(火) 20(土) 
    23(火)  27(土) 30(火) 

【オープン時間】13:00 – 17:00
★「山田荘」「くすのき荘」について、詳しくお知りになりたい方には、個別見学・相談をお受けします。詳細はWEBでご確認ください。
詳細はhttps://yamadasoukamiike.wixsite.com/mokuchinnet


編集後記

池ブルックリンメンバー・めぐロッカーさんは、普段は会社員として働いていますが、このインタビューの後「借りてみたい!」と思ったそう。
また、池ブルックリンメンバー・板垣有さんもメンバーとして応募したそうなので、「メンバーになってみた体験記」の記事も作成されるかも?
今後のくすのき荘も、池ブルックリンも、どうぞお楽しみに。

豊島区を楽しむ人たちのサイト「としまTIMES by池ブルックリン」では、メンバーが面白いと思った豊島区に関することを、体験し、ついでに紹介するというスタンスで記事を作っています。
メンバーも随時募集中。詳しくはサイトをどうぞ。
http://ikebrooklyn.jp/

としまTIMES by 池ブルックリン
 
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