約15年勤めた板橋区大山のお店から独立して、生まれ育った大塚のまちにお店を構えられたそうですね。

―はい。お店の上階は住居になっていて、実家なんです。ここに住んでいた祖母が「お店にしたらいい」と、僕が美容師になりたての頃から言ってくれていました。でも当初、ここは駅から離れていて人通りも少ないし、お店を出すのには向いていない場所だと思っていました。ところが、子どもを育てて、30代後半になった頃、「あ、ここすごくいい場所だ」と見方が変わったんです。

住所で言うと東池袋2丁目ですよね。どんなところが良いと思ったのですか?

―都心とは思えないほど静かな場所だというところです。ひとりで切り盛りする貸切サロンにしたかったので、お客様がのんびりできる雰囲気にするのに、ちょうどよいなと思いました。僕は、ひとりひとりの髪の悩みを改善する“お悩み解決型”の美容師として、お客様と長いおつき合いをしたいと思っています。流行のデザインを提案する原宿や青山の美容室とは別の価値として、住む場所の近くに、ライフスタイルに合わせたヘアスタイルを提案してくれる美容室があったらいいんじゃないかと。そんなお店を、自分が育ったまちに作りたいと思いました。

お子さん連れも歓迎とのこと。お母さんたちはうれしいでしょうね。

―小さなお子さんがいるお母さんにも、気軽にサロンで過ごしていただきたくて。僕自身、以前のお店を辞めてから、ここをオープンするまでの間、3ヶ月ほど主夫をしていました。上の娘が保育園に通っていた頃で、家事をしながら子どもの世話をして、合間に家でできる仕事をするという……。もう気が狂いそうになりましたよ(笑)。だって、全然自分のペースで進められない! この大変さを味わっているのは、今の世の中たいていがお母さんですよね。だからこそ、「お母さんもお子さんも一緒にどうぞ」と言えるお店にしたかったのです。

〈写真〉店名には、金子さんのお子さんたちの名前が入っています。
小さなお子さん用に子ども椅子もありますが、お子さんの様子次第で臨機応変にカットする場所を変えるそう。

貸切だと、気兼ねなく子どもを連れて行けそうですね。

―そうなんです。他にお客様がいないからお母さんが気を使うこともないですし、路面店なのでベビーカーでそのまま入っていただけます。お店にも遊べるものはありますが、お子さん連れの方にはお気に入りのおもちゃを持参いただくことや、時間に余裕を持って来ていただくことを案内しています。途中であやしてもらってもいいし、動画を見せることもできる。お母さんそれぞれの子育てスタイルを優先してもらいながら臨機応変にできるのは、貸切サロンの強みです。

お母さんもご自身のタイミングで美容室に行きやすくなるわけですね。

―そうなっていただけたらうれしいです。子育てで忙しいお母さんたちは、どうしても髪を一つに結んでしまうことが多いのですよね。ならばと、結んでもおしゃれに見えるちょっとしたアレンジをお伝えしたり、扱いが簡単なカットにしたり。お子さんに「お母さんばかりずるい!」と思われるくらい、お母さんたちには美容室でヘアカットして良かった、楽しかったと思ってもらえるように努めています。

ホームページには、金子さんの奥様の出勤日が記されていますね。

―はい。毎週ではないのですが、金曜日に来てもらっています。妻は看護師の仕事をしていて、以前は保育園にも勤務していましたし、子育ての経験もあります。妻がお子さんの遊び相手になることで、お子さん連れのお客様に安心して過ごしていただけたらと。子育ての悩みなど、ママトークですごく盛り上がることもありますよ。妻に会いに来たと言ってくださるお客様もいて、不在だと、「今日いないんですか?残念―!」なんて言われます(笑)。

〈写真〉店内は、金子さんの希望とデザイナーさんの的確なアドバイスでつくりあげた、こだわりの空間。

奥様は子連れのお客様にとって心強い存在なのですね! ところで、店内はとてもリラックスできる雰囲気ですが、こだわった点などありますか?

―あります! シャンプー台は上質なものを取り入れました。美容室ですることは、パーマやカラーなど、どうしても不快感を伴います。そのなかで気持ち良さを感じていただけるシャンプーにはこだわりたくて、首への負担が少なく、一番寝心地がいいと思える台を選びました。体のポジション次第で快適さも違ってくると思うので、スタイリングの椅子も医師が開発したという、体に負担がかかりにくい設計の椅子にしました。
子育てや仕事で疲れを感じたときに、「来週はカットとスパの予約をしたから、それまでがんばろう」と、サロンに行くことを楽しみにしていただけたら最高ですね。

お一人で切り盛りされていると大変なこともあるのでは? 何か工夫などされていますか?

―お客様をシャンプーしている最中などに電話が鳴ったときは、対応できないのですよね。シャンプー中のお客様にとっては癒しの時間なので、むしろ手を止めないようにしています。その代わり、営業中にいただいた電話で出られない場合は、留守電にしておいて折り返し電話をしています。
それから、希望された日時に予約が入っている場合に、キャンセル待ち登録をしていただけるシステムもあります。一人でやっていると、どうしても予約を受けられる数が限られてしまうので。キャンセルが出て、こちらから連絡した際に来られるかどうかを決めていただいています。「じゃあ今から行くわ」なんてことも、近所の方なら気軽にできますしね。

〈写真〉店頭は、勤労感謝の日に近所の保育園の子どもたちからもらったプレゼントや、来店者にワクワク感を味わってもらおうと設置したガチャガチャ(当たりは割引券!)で楽しい雰囲気。

なるほど。工夫次第でできることも増えるものですね。

―はい。何かイベントもやってみようと考えて、ハロウィンで6年生以下のお子さんと同伴の方を対象に、ちょっとしたお菓子をプレゼントすることもしました。今年もする予定です。お店の予約をしなくても、来てくださるだけでいいんです。僕もコスプレしちゃいますし、楽しんでやっています。

それは楽しそうですね! まちの人とも交流できたのでは?

―そうですね。この企画は、お店とまちとの敷居をなくしたい思いでやってみました。実はこれまでに、お客様が全くいらっしゃらない日が何度かありました。ピカピカに掃除して、事務仕事も終えて、何もすることがない!となった時は辛かったです……。そんな時、カウンターでボーッとしていたら、外を歩いている近所の方が手を振ってくださるんですよ。僕が暇そうにしていると、お店に寄ってくださる方もいて、とてもありがたかった。大塚の人の温かさは、子どもの頃から感じていましたし、近所の皆さんを大切にしたいと思っています。

金子さんにとって、大塚はどんなまちですか?

―山手線沿線にあっても、人とふれあう機会がたくさん得られるまちだと思います。子どもの頃、「サンモール大塚駅前連」に所属して大塚阿波おどりに出ていましたが、その連の大人たちからは、まあよく怒られましたね(笑)。特にお祭りの時期は全力で叱ってもらいましたよ。でも、バスで旅行に連れていってもらうなど、優しくもしてもらいました。連に入ることで縦のつながりができて、その時の先輩やリーダーもお店に来てくれます。僕はいろんな大人に育ててもらったと思いますよ。

最後に、お店のオープンから1年半で感じられたことや、今後のことについてお聞かせください。

―ちょっと社会問題にもつながりますが、子どもを育てるのは、お母さんばかりじゃなくていい世の中になってほしいです。僕自身、主夫をしたことで子どもとの距離が縮まった経験もあり、今は、土日に子どもの行事がある時など、前もって告知してお休みをいただくようにしています。運動会など、その場所で同じ時を共有できるのは本当にありがたいですよ。
仕事が忙しくて、子どもと触れ合う時間が少ないお父さんは僕だけじゃない。状況的に難しいお父さんも多いでしょうが、お母さんだって大変です。お母さんが美容室で過ごす約2時間、家で小さな子どもとお父さんだけだと不安なら、うちのお店に家族で来てもらうこともできます。子どもが飽きたら公園やコンビニに出かけるなど、おおらかに過ごしてもらえたらと。そういうご家族にとって、うちのお店が少しでもお役に立てたらいいなと思っています。

通りから見える壁一面の黒板は、お子さんが待ち時間に絵を描いて楽しめるそう。
―「ここでご年配の姉妹がヘアカットがてら待ち合わせされることも。そういう場所になれるのもうれしいですね」と語りながら、笑顔が絶えない金子さんでした。

インタビュー/文/写真:後藤菜穂


《美容室 ちいさな木》

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