ファッション業界に起きた価値観の変化〜「モノ」より大切にしたい「コト」

2016年に東邦レオの取締役社長に就任される前は、ファイナンス、ラグジュアリーブランド、カフェ経営と多方面でのご経験があるのですね。

―最初に就職した信託銀行で都市開発事業に携わり、ファッションブランドが集まる商業施設のプロジェクトを経験しました。施設が生まれると人の流れやまちが変化する。こういう事業を自分の手でやってみたいと思い、独立起業したんです。当時、「ブランドを特定せず、ライフスタイル全般を提案する」セレクトショップが日本に出始めた頃でした。ニューヨークやパリではすでに当たり前でしたが、日本にはカジュアルブランドのセレクトショップしかありませんでした。ならばと、ラグジュアリーブランドばかりを集めたショップを東京ミッドタウンで開業しました。

ミッドタウンにオープンされたとは、すごいですね。

―世界トップのお店を目指していましたからね。やるなら「世界で一番」が僕の考え方なんです。富裕層や芸能人、プライベートジェットで来店するような顧客を抱えていて、世界中のデザイナーが出品したくなるショップ経営を、ニューヨーク在住のアメリカ人など、仲間と一緒に展開していました。
ところが、2008年のリーマンショックの頃から、ニューヨーカーのライフスタイルが大きく変わったのを感じ、パリの雰囲気も同時進行で変化しているのが目に見えてわかりました。

ファッションの最先端をいく2大都市の変化とは?

―「高価なモノを持ってバーで朝まで飲み明かすような華やかな生活って、もうダサいじゃん。それより、美しい夕日を眺めながら会話する豊かな時間を持つことがかっこいいよね」
――そんな変化です。

消費することから体験することへと、豊さの基準が移ったのですね。

「心においしい」価値を創る、東邦レオとの出会い

わずか2週間で、ラグジュアリーブランドの世界をやめる決断をしたのですか?!

―リーマンショック以降、価値観のギャップを感じ続けていたので、すぐに決められました。実は、銀行を辞めて起業したばかりの時も状況は同じで。かっこいいと思うことも馬鹿なことも「いい!」と思えば、それをおもしろがる人たちと仕事にしていたなと。新たな価値の創出が僕の「使命」だと、改めて認識しました。

東邦レオの顧問になられたのは、その頃ですか?

―はい。ちょうどその頃、クール・ジャパン機構の創設にも関わっていましてね。そのシンポジウムで僕が語った言葉に、東邦レオのひとりの社員が共鳴してくれたのがきっかけで、顧問として携わることになりました。最初は「へぇ、緑化とかまちづくりとかやってるんだ。まぁ頼まれたからやってみよ〜」みたいなノリでしたけどね(笑)。

そうなんですね(笑)。でも、まちの中に緑がたくさんあるのはうれしいです。心が和みますから。

確かに…。「心においしい」は、生活のあらゆるシーンで感じていたいです。

―そこで、あれ?と思いましてね。「僕が顧問をしている東邦レオって、緑化事業を手がけているよね?だけど技術力はあってもお金儲けがうまくない。それでいて社内のフラットな関係性に価値を置いている…。それって今の時代っぽいじゃん!」と、結びついたんです。

そうすると、東邦レオの当時の社長(現会長)とも意気投合されたと。

――いえ、最初から調子が合ったわけではないんですよ。僕が「グリーンなライフスタイルのものすごくかっこいい会社になりますよ!」と言ったら、「うち、お金は一度も借りたことがないし、そういう浮ついた会社じゃないから。工事やってなんぼだから」って(笑)。でもね、創業50年になる東邦レオという会社は、社内の運動会や演芸大会をものすごく大事にしてきた。年齢、役職、部署などの隔たりなくチームをつくって練習に励むといった文化ができていました。業績が厳しい時に運動会を中止にしたことを、間違った経営判断だったと社長が本気で悔やんでいる、そういう会社なんですよ(笑)

そういえば、吉川さんも社員から「みーさん」と呼ばれていますが、もともとそういう社風だったのですねぇ。

―そう、だから「実は今の時代の最先端をいってますよ」としつこく言いました。「事業もいいし社員もいい。可能性はすごくあるけど、経営を変えなきゃ!」と。これはまたしても使命だと思い、「今の仕事を全部やめて、社長やりますよ!」と言い切って、それで今社長やっています(笑)。

「貢献」ではなく「一員」〜カオスなまち、大塚での挑戦

〈写真〉取材で訪ねたのは東邦レオビル8階にあるスペース《CoRe LAB》。社員手づくりのバーカウンターもあり、「スナックレオ」と題したまちの人との交流イベントも開かれている。

最近は大塚のお祭りに参加するなど、地域に積極的に関わられているそうですが、どんな想いからなのでしょう。

―企業の社会的責任として一番大事なのは、自分たちの足元、すなわち「地域」との関わりです。これね、固く考えて「一企業として地域に何を貢献できるのか」なんていうのは嫌いなんです。だってここで暮らしている人たちは、地域に貢献しなきゃなんて考えてないでしょ? 祭りに参加することも日常のひとつなんですから。それと同じで、企業は地域の一員であって、何を貢献するかではない。寄付ももちろんするけれど、まずは「祭りに行きましょう。一緒に飲みましょう」が大事。それで軽く顔見知りになれたら十分です。すごく単純なこと。Core LAB(東邦レオビル8階のコミュニティスペース)でやっている「スナックレオ」もそんな想いから始めました。まちの人とのコミュニティをどんどんつくっていきたいですね。

コミュニティと言えば、東邦レオビルの前でコーヒーを振る舞う「フリーコーヒー」の活動もそのひとつですか?

―そうです。地域とどうコミュニケーションをとるかモヤモヤと考えている時に、建築コミュニケーターの田中元子さんに「大塚でコーヒーを配ったら絶対いいですよ!」と声をかけてもらったのがきっかけです。 大塚のまちにはすごくたくさん路地がありますよね。路地は歩くスピードが緩やかになって人がたむろしやすいんですよ。そこには古くからの人も最近住み始めた人も混在していて、ちょっとカオスな感じがする。何か日常と違う、妙なことを始めてみるにはちょうどいい場所だと気づいたんです。

確かに、オフィスビルの前でコーヒーを配っていると、驚かれそうですね。

「真似できない価値」×「自分たちでつくる物差し」=大塚的?!

大塚とニューヨーク、通じるところがあるなんて、ちょっと驚きです!

〈写真〉「エントランスの絵を見ようとビルに入ってくれる人がいてうれしい」と吉川さん

なんだか大塚のイメージが180度変わりました…。

〈写真〉エントランスの絵を手がけたアーティストの作品たち。多くの人に見てもらえるようにと、CoRe LABにたくさん飾っている

なるほど。今の基準では測れないかっこよさ、ですね?

―そうです。これからはお金があるかないか、賢いかどうか、おしゃれかどうか、そういう物差し自体が古くなってきます。「そのかっこよさって大塚的だよね」と言われたいじゃないですか。変に追いつこうとするのではなく、一番だと思って走ることに意味があるんです。
でもそれはひとりではできない。「大塚で、“かっこいい”と言われる物差しをみんなでつくらない?」ということです。物差しはちょっとグニャグニャしていてもいい。一見無駄なことや馬鹿なことでも一生懸命やって「お金では買えない大塚のかっこよさは自分たちでつくる」という価値を大切にしようと思っています。

明るくリズミカルなトークが印象的だった吉川さん。職種は変わっても常に世の中の潮流を読み解き、ご自身の想いやメッセージを着実に表現しながら新たな価値で人・まち・企業をつなげています。CoRe LABの今後の催しも気になるところ。ぜひ訪ねてみてくださいね。

インタビュー/文/写真:後藤菜穂


《東邦レオ株式会社》

ホームページ:https://www.toho-leo.co.jp/
CoRe LAB-コアラボ-:https://www.facebook.com/CoRe-LAB-884312631768139/

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大塚新聞|『フリーコーヒーからはじまる、企業と街との新しいコミュニティ』by大塚新聞
http://otsukatimes.com/180803freecoffee.html/