グローバル×ローカル。もっとまちに人が交わる接点を。

ところが、ある出会いで坂本さんの考えは一転します。縁あって関わり始めたネパールの小学校の支援活動。根強く残る階級制度のために貧しい暮らしをする子どもたちを、なんとかして救いたい、と現地を訪ねました。しかし、出迎えてくれたのは思いも寄らない「最高の笑顔」の子どもたちでした。経済も治安も恵まれているはずの日本では感じられないような豊かさに、衝撃を受けた坂本さん。―「日本は決してネパールのモデルにはなれていない。もっと日本国内でできることがあるのではないか」と思いを新たにしました。

坂本さんが経営するカフェは、青山と池袋の2店舗。政府観光局外国人観光案内所の認定を受け、池袋店は最も高いカテゴリー3を取得しました。観光案内の専門スタッフではなく、カフェスタッフが案内役を担い、数ある観光案内所の中でも先進的な取り組みとなっています。―「一番小さなローカルは個人。それぞれのローカルが出会い、つながる場にしたい」という思いを「GLOCAL(=GLOBAL×LOCAL)」として、カフェの名前に込めています。

オープン以来、ワークショップやパーティなど様々な企画を催し、「場づくり」を積み重ねてきた坂本さん。―「実は原始時代から存在しているコミュニティ。その本質的な価値を広げたい」といいます。多様な“人”や“活動”を受け入れられる場所として、GLOCALな交流が生まれることを願い、取り組んでいます。

オープン当初は「池袋」というまちのイメージに抵抗も感じたという坂本さん。しかし、地域で沸き起こる企画や交流から、まち人々の気概を感じることができ、今では池袋が大好きになったのだそうです。―「コミュニティカフェのスペースは、使っていただいて初めて価値が出ます。ぜひ企画を持ってきてくださいね」とのこと。地域へも海外へも、GLOCAL CAFEでなら、軽やかな一歩が踏み出せるような気がします。


場所と物語。まちを舞台に作品をつくる。

豊島区の住民にも意外と知られていない御会式。日蓮聖人の命日に合わせて行う法要として、全国各所で毎年秋に営まれ、信徒たちが太鼓を叩きながら列をなして歩く行事です。雑司ヶ谷で行われるものは1日で最大数千もの人が練り歩く、東京三大御会式の一つ。地域住民を中心に営まれていることに加え行列の8割を信徒以外の人々が占めており、まちに根ざした行事となっていることが特徴です。

雑司ヶ谷御会式が営まれる10月16日〜18日に合わせて、ツアーパフォーマンス「BEAT(仮)」を上演するのが、石神さんの手がけるOeshiki Projectです。ツアーの締めくくりとして御会式に合流し、共に練り歩く体験型プログラムとなっています。鬼子母神堂を有する法明寺と地域の御会式連合会の協力を得て、プロジェクトを支えるのは日中合同のクリエーションチーム。トークイベントやワークショップなどの関連イベントを開き、創作プロセスを公開することで、多様な人を巻き込む企画となっています。

「日常では分かり合えないことがあっても、『同悲』という仏教の教えのように、互いの悲しみに寄り添い、共に歩くことが大切」という法明寺のご住職の言葉に胸打たれた石神さん。―「いつもいつも共に歩くことは難しいかもしれない。それでも、独特の太鼓のリズムを共に響かせながら、その難しさと向き合い、どうやって共に歩くことができるのかを考えていきたい」と、プロジェクトに込めた思いを語ります。

石神さんは子どもの頃から演劇をつくり、これまで、国内外の各地でまちの人がまちを舞台に演ずる演劇を、数多くつくってきました。演劇経験のない人でも、その人にしかできないパフォーマンスがある。それをいかにして引き出すのかを練り、演劇の醍醐味を伝えようとしています。誰もが参加できる、豊島を舞台としたパフォーマンス。見るもよし、参加するもよし、今からワクワクします。


アート×テクノロジーの世界を日常に。

「アート×テクノロジーの世界を、もっと日常に」――。佐藤さんがこのテーマに行き着いたのは3年半前のこと。働きづめで体調を崩し、入院生活を余儀なくされた際に、病室から日々見つめた美しい夕焼けが原体験となっています。それまで気づくことのなかった美しさに感動した佐藤さんは、以来、世の中にあふれる固定概念の認識をアートとテクノロジーを用いて「再定義」する活動へとシフトしました。

佐藤さんが手がけるプロジェクトは実にユニークです。プロ野球開幕戦でスタジアム上空にドローン80台を飛ばして照明と融合させた演出、高さ240メートルのタワーに東京五輪の応援メッセージをアプリからライブで飛ばして映すプロジェクションマッピング。他にも、オーケストラ×テクノロジー×空手、暖簾×テクノロジー、《いどばたアート》で手掛けた銭湯×アートなど、新たな可能性に気づかせてくれるものばかり。既存の概念ではおよそイメージできない演出が話題となり、メディアにも多く取り上げられています。

これらのプロジェクトは、佐藤さんのプライベートでの活動の一部とのこと。活動を通じて佐藤さんは、―「従来の組織は1つの分野に特化したスターウォーズのようなもの。今は多様なスキルをミックスしたアベンジャーズのようなチーム体制の方が、固定概念にとらわれず、おもしろいことができる」と実感したのだそうです。

豊島区民になって3年半という佐藤さん。―「昔ながらのまち並みが残る池袋は、六本木や銀座のような出来上がったまちと比べて、余白のようなものに可能性を感じる」と、豊島区を舞台にした演出も構想しています。フォトグラファーの一面を持つ佐藤さんの作品は《ポートフォリオ》から。ファインダ越しに佐藤さんが見つけた新たな発想、今後のプロジェクトも楽しみです。


豊島区出身、三代続く料理研究家の家に生まれて

祖母は料理研究家の村上昭子さん、母は料理研究家の杵島直美さんと、きじまさんは代々料理研究家の家に生まれ育ちました。豊島区椎名町にある自宅は、当時から、スタッフやカメラマン、編集者などが出入りし、大勢で大皿料理を囲むのが日常でした。その仕事ぶりを幼いころから当たり前のように目にしてきたきじまさんは、一度はアパレルメーカーに勤務したものの、思い直して料理研究家の道を目指したといいます。

しかしそんな境遇も、―「30歳を越えるまで、家業を継いだことをなかなか人に言えなかった」ときじまさんは当時の心境を振り返ります。また、自身のスタイルができ、今でこそ雑誌の池袋特集のオファーに応えるきじまさんも、かつては地元が椎名町だということを言えずにいたのだそうです。それらの気持ちを重ねながら、当たり前すぎて見えなくなっている価値の存在に気づいたといいます。

自宅を訪れるスタッフからは「椎名町、いいね」と言われ、3年前に「シーナと一平」が誕生したことで、海外からの観光客を椎名町でもてなすなど、以前なら考えられなかった機会もできました。―「外の人が来てくれて初めて、内側の人間ってまちの明かりを見つけるものなんですね」と新たな視点を得たきじまさん。椎名町での楽しいエピソードで会場を沸かせました。

大学時代、観光学部で学んだきじまさんには、心に残る講師の言葉があります。『観光』とは、何かを光らせることではなく、もとからある光を見つけて、それを輝かせること――。料理をすることもこれに通じるといいます。スピーチの冒頭で―「皆さん、ここからは休憩時間ですよ!」とアドリブ満載の楽しい話を聞かせてくださったきじまさんの料理の世界、もっと詳しく知りたい方は、《きじまりゅうたのダイドコログ》をチェックしてみてくださいね。


池袋発のブルワリー。この場所ではじめるドリンクローカルな世界

―「鮮度の高さを楽しんでもらいたい」と醸造所を立ち上げたのは藤浦一理さん。アメリカ在住時に全米一のホームブルーイング賞『American Homebrewer of the year』を受賞し、その後、代々木でこだわりのクラフトビールを提供するビアバー・ウォータリングホールを運営するなど、日本におけるクラフトビールを牽引してきた人物です。

―「ビールという飲み物は、ワインと比べても圧倒的に多様性があるんです。アルコールは0%から20%を越えるものまであり、色も様々で、炭酸の強度にも大きな差がある。こんなにありとあらゆるものがそろう飲み物は他にないでしょう」。藤浦さんはそうした奥深いビールの魅力を多くの人に広めたいと考えています。

本でビールが作られるようになったのは明治時代と歴史は浅く、大手メーカーの数は変遷をたどっても5社ほどのものです。それぞれの味に大差はなく、日本人の多くがビールの多様性を未体験なのだとか。藤浦さんによると、酒税法の規制や定められた最低年間醸造量などによって、醸造所の運営は一筋縄ではいかないのだそうです。こうした背景もあって、日本は個性的なビールが生まれにくい土壌にあるようです。

それらの課題を一つひとつクリアにして実現したSnark Liquidworksの操業。巨大なタンクを設置できる物件は貴重で、探し続けていた藤浦さんにとってNishiikeMart【西池袋マート】との出合いはまたとないものでした。―「近所の人に来てもらえたらうれしい」という藤浦さんのスピーチは、つかの間のビールセミナーのようで、クラフトビールを片手に聞き入る参加者たちをうならせていました。


今回の会場は《NishiikeMart【西池袋マート】》。築50年近い建物をリノベーションし、ビアパブ(Snark Liquidworks)、アートギャラリー、そしてラジオブースが誕生しました。まちの人をつなぐ拠点として、様々な発信が期待されています。

文/写真:後藤 菜穂



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