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演劇を通して挑む、まち・食・人の関係性の再構築

はらぺこ満月
星 茉里さん(はらぺこ満月 主宰)

《はらぺこ満月》とは、主に「食」「土地」にまつわることと、「身体」との関係性を再構築するプロジェクト。活動のルーツは、主宰の星茉里さんの小学生時代にさかのぼります。家族の仕事の関係で転校を繰り返した星さん。友達をつくってもすぐに別れてしまうのならと、クラスに溶け込むことよりも、人間模様を俯瞰(ふかん)する術を身につけていきました。さらに、13歳である病を発症。重度な進行状況でしたが、その後、手術などの治療によって回復したその経験から、―「二十歳以降は余生。好きなことを好きなだけやろう」と、心に決めました。

その後、コミュニケーションデザインの仕事を主軸に働く中で、まちづくりの仕事に携わります。まちの個性を探るうちに、まちを演劇の舞台に見立て、行き交う人々を戯曲の主人公のように捉える視点が芽生えた星さんは、―「モノやヒトの『間』にある可能性に目を向けるようになった」と言います。今あることを見直し、新しい価値をつくる――。「目に見えている事象そのものを説明する」のではなく、見えないモノ・コトを感じて「つなぎ直す」ことで、自身の創作活動の基盤をつくっていきました。

2017年、はらぺこ満月を立ち上げ、この日会場となったくすのき荘を中心に活動。くすのき荘1階で上演した演劇『SHOKUPAN 1』は、実に独創的な構成です。食パンを食べるシーンを演じる俳優の背景には、ガラス張りの扉があり、実際のまち中の日常が透けて見えるというもの。演劇の「非日常」と、まちの「日常」をあえて融合させ、フィクションとリアルが交差するシーンをつくり上げていく作品です。「リアルなまちの様子=偶発的に起きる事象」を活用しながら、媒介としての演劇づくりを目指しています。

日常を取り込む演劇は、うれしい副産物も。まちの人から「この場所を舞台にできないか」と声がかかったり、パン屋から「うちのパンを使って」と依頼が舞い込んだりしました。また、普段立ち寄らないような人が来訪者として現れるなど、通りから中の様子が見える場の可能性を感じることができました。今後の予定として、2019年12月に長野県上田市の元銭湯の会場で作品を上演予定だとか。―「当たり前のことを当たり前だと思わないで、やっていきたい」と、一つひとつ言葉を重ねるように語る姿が印象的な星さんでした。


小さな飲食店の開業をみてきた仲間たちがはじめた、雑司が谷のちいさなお店

ONIGIRICO.
間宮 真介さん(株式会社アキチ 代表取締役 COO)

学生時代、仲間とともにカフェバーを立ち上げた間宮真介さん。しかし、継続的な経営はかなわず、苦渋を味わいました。当時の経験が、《株式会社アキチ》の原点となっています。開業後、1〜2年で約半数の店舗が廃業に追い込まれる飲食業界。間宮さんは、―「『準備学習』の機会や環境の不足が、カフェの立ち上げを難しくしている」と言います。事業計画の段階からサポートするスクールは時間と高い学費がかかり、気軽に通えるカフェスクールは主に技術面しか学べない。修行を兼ねてカフェで働いても開業資金が貯まらない――。こうした悩ましい現状が、―「自分たちの痛みの感覚として残っている」と、準備不足だった当時のことを振り返ります。

カフェを運営した仲間が再び集結して立ち上げたアキチは、カフェ開業におけるソリューションを提供する会社です。間宮さんは、―「土地に馴染むこと一つとっても1〜2年を要するなど、どんなにいいお店でも、お店をやる楽しさと同時に、さまざまな困難を伴う」と言います。アキチでは、最初の無料講座でカフェ運営の実情をしっかりと伝え、その先に進みたい人に対して、事業計画から開業までを二人三脚で応援するサービスを展開。支援するカフェごとにプラスアルファの価値を創出し、独自性のある店づくりや経営の基盤づくりのサポートに取り組んでいます。

そんな間宮さんが―「自分たちのノウハウをさらに広げ、高めたい」と雑司が谷ではじめたのが《ONIGIRICO.》です。テイクアウトを中心におにぎり、鶏汁などを販売。おにぎりに適したコメや塩を厳選し、出来立てのおいしさを保つ工夫を重ねるなど、日々の暮らしに溶け込む優しい味を目指しています。―「カスタマイズできるのもおにぎりの良いところ」と、ONIGIRICO.では、具材に地域の味を取り入れることや、ケータリングのアイデアなど、一つずつ新しい試みを取り入れているところです。

IT企業がさまざまなサービスのプラットフォームを担う今の時代ですが、そこには限界もある、と間宮さん。―「日々の食事といった身体性を伴うことは、インターネットの技術に置き換えることは決してできない。とびきりローカルなことの価値はますます高まるはず」と、カフェ開業支援の礎となる思いを語ります。ONIGIRICO.は雑司が谷の地に馴染むお店づくりの実験でもあり、営業時間などさまざまにカスタマイズしながらの営業スタイル。ぜひインスタグラムやフェイスブックをチェックしてから訪ねてみてくださいね。


池袋のまちに学生が活躍できる舞台をつくる

としまワカモノ会議
夏井 陸さん
(としまワカモノ会議 共同発起人、No RooF 共同代表)

浮かんだアイデアを即実行するスタンスで、活動の場を広げる夏井陸さん。としま会議のゲストスピーカーの最年少記録を更新した現役大学生です。大学進学の際は、挑戦することへの期待を胸に、郷里の三重県四日市市から上京しました。好きな言葉は、「Leap before you look! 〜見るまえに跳べ」。1年間留学したベルギーで日本文化フェスティバルを立ち上げ、関わる人々が少しずつ盛り上がる様を目の当たりにした夏井さんは、―「誰かがチャレンジするのを応援したい!」と考えるようになります。こうして得た「誰かと一緒に」という情熱が、帰国後、さまざまな活動の原動力となっています。

豊島区に暮らす夏井さんは、区内在住の20〜30代の若者の定住率が非常に低いというデータに衝撃を受けます。―「若者の一人として、豊島区の可能性を感じてもらえることをしたい」と、としま会議をヒントに、《としまワカモノ会議》を3人の仲間と立ち上げました。2019年5月の初開催を皮切りに、ビジョンを描く若者と、豊島区を盛り上げる“プロフェッショナル”な大人が交差する場として、今後も継続的に開催する予定です。

実は、ベルギーから帰国した直後、一時的にホームレス状態だったという夏井さん。苦楽を味わった日々の中で、住まいや暮らし方をテーマにした何かを体現したいと考え、《NoRooF》というシェアハウスを立ち上げました。自分のあり方を模索する若者の居場所として運営しながら、やがて―「僕らに屋根のある部屋は狭すぎた」と、屋根のない「まち」へと活躍の場を広げていきます。

夏井さんは、―「何かやってみないとわからない。何かをやりながら学びたい」とくり返します。大切にしているのは、挑戦への“熱さ”と、安心して集える“ゆるさ”を併せたスタンス。「Zカレッジ〜挑戦を応援しあう若者コミュニティ〜」の開催など、多様な人と“おもしろさ”を共有し、そこでつながった若者や大人によって何かが生み出されるよう、機会の創出に力を注いでいます。―「まずは豊島区で、きちんと自分のつくりたいまちや世界のあり方を追求したい。そして、それぞれが持ち合わせた魅力を最大化できるようにしたい」とくくりました。


西池袋、要町、椎名町エリアのコレデイイノダを発見するコミュニティラジオ

「コレデイイノダラジオ」のパーソナリティ
巣内 雄平さん(デザイナー)

巣内雄平さんは、飯田橋にあるシェアオフィス《Lino》を拠点に、ブランディングデザインや、ロゴ開発、キービジュアル開発などを中心に手がけるグラフィックデザイナーです。 (ホームページはこちら
豊島区では、ぶくろマルシェのブランディングやなんてんカフェのポスターデザイン、南池袋公園のLOCAL FESTIBALのフライヤーデザインなど、さまざまなプロジェクトにデザイナーとして関わってきました。そして今春、西池袋にオープンした《NishiikeMart》にアートディレクターとして参加。施設のネーミング、ロゴデザイン、サインデザイン、Webデザイン、そしてコンテンツ企画のメンバーとして、ラジオ局《コレデイイノダラジオ》を立ち上げました。

NishiikeMartの一画に設けられたコレデイイノダラジオは、まちの誰もが参加でき、番組を始められるラジオ局。西池袋・要町・椎名町エリアの人やお店、文化に潜在している「コレデイイノダ」を発見することがテーマです。コミュニティラジオとして、まちの内外の人同士の文化的な交流軸になることを目指しています。

コレデイイノダラジオのロゴも制作した巣内さん。ラジオ局のデザインジャッジの段階からまちの人が参加できるよう、ロゴ案を3つ立てて、誰でも投票できる「ロゴ選挙」を実施しました。―「このまちでラジオ局を開かせていただく以上、まちの人の声をしっかり反映させたかった」と巣内さんは言います。みんなで一緒につくり上げていくラジオとして、まちの人のフィット感を重視しながら、ラジオ局やNishiikeMartとの接点を設計することに努めました。現在パーソナリティの募集もしています。

そしてこのほど、巣内さんは友人であるデザイナーの三上悠里さんと黒岩美桜さんの3人で《ラジオ デザイン3歩》というラジオ番組を始めました。3人のデザイナーが各々テーマを持ち寄り、西池袋・要町・椎名町の人たちとゆるやかにつながりながら、デザイナーの考えや視点をアーカイブしていく番組です。―「まちの面白さをデザイナー視点で見つけたり、ディープなデザインを哲学的に切り取ったり、街の内外の人をゲストに1つのテーマをディスカッションしたりしたい」と、巣内さんは新番組の展望を語ります。人と人がつながりを生むコレデイイノダラジオの配信情報は、NishiikeMartのfacebookページに流れているそうですよ。


住むまちでできること。お菓子教室講師、まちへ出る

くりころん
栗崎 優子さん(くりころん 主宰)

かつては大手印刷会社の営業職に就いていた栗崎優子さん。多忙を極める日々を送り、食生活の乱れや睡眠障害で苦しむこともありました。その後、通い始めた料理教室で講師業へと大きく舵を切った栗崎さん。―「手作りすることの大切さを、身をもって知った」と言います。料理教室のケーキコースの講師として奮闘し、やがて独立。自宅で教室を開催するようになります。非日常を満喫してもらえる教室を目指し、意欲的に知見を広げるうちに、複数のレシピ本を共著出版する機会も得ました。

―「たった1人での教室運営は仲間をつくって事業を広げる機会もなく、寂しい思いをした」と当時を振り返る栗崎さん。転機となったのは、2016年、東池袋に移り住み、シェアアトリエ日の出ファクトリーと、そこを拠点に多様な人々と出会ったことでした。自身の中で歯車が動き始めたことを感じた栗崎さんは、としま会議などあらゆるイベントに参加。まちの人々とのつながりで、地域のマルシェへの出店やコラボ企画で開いたお菓子作りワークショップを次々と実現します。また、その活躍がとしまscopeに取り上げられると、子ども向け雑誌の仕事を依頼されレギュラー化するなど、さまざまな連鎖の輪が広がっていきました。

自宅教室の外へと一気に展開していった栗崎さんですが、―「立ちはだかる壁もあった」と言います。自信の無さをするどく突かれた親しい友人からの「プロとしか仕事はしない」という言葉。また、保健所の許可が下りた調理場を確保しなければ、販売用のお菓子は作れないということ。こうした壁が栗崎さんの心に火をつけ、自身のスタンスを変化させていきました。やがて、大塚で行きつけとなっていたカフェ、riddle. Coffee&Barのオーナーに「うちのキッチンを使って」と声をかけてもらったことで、念願だったお菓子販売を開始した栗崎さん。さまざまな壁を越えながら、―「全力でやっていれば誰かが見ていてくれる」と、実感しました。

約2年間、大塚を拠点に走り続けた栗崎さん。カフェhahaco(駒込)での親子向けワークショップや、株式会社大塚青木商店(大塚)のオリジナル味噌を使ったお菓子の販売などで、《くりころん》の味をさらに広げています。今後は、活動のステージが地域の外へ飛び出し、郷里の静岡県菊川市のイベントへの参画や、動画コンテンツの仕事も展開する予定だとか。広がるだけではない、深化もみせるくりころんの今後が楽しみです。


この日の会場は、1975年に建てられた木造2階建ての《くすのき荘》。一昔前の木賃アパートの住人がまちにある銭湯や食堂などを使って生活していた文化を、現代のライフスタイルの視点でつむぎ直す「かみいけ木賃文化ネットワーク」の拠点となっています。夏のような暑さに見舞われたこの日。公園を見晴らせる腰窓から、時折心地よい風が吹き抜けていました。

文/写真:後藤 菜穂


https://www.facebook.com/toshimakaigi/
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